よだれが出ているので歯が悪いのではないかと言われた<重度歯周病>(ミニチュアダックスフンド 14才)歯科症例85

ミニチュア・ダックスフンド 14才1カ月 男の子

 

トリマーさんに涎(よだれ)がでているので歯が悪いのではないかと言われたので歯をチェックしてほしいとのことで来院されました。

 

口腔内を確認すると、歯石がとても多く、歯が見えないぐらいでした。

歯肉も全ての部分に発赤があり、重度の歯周病と思われました。

 

炎症やそれに伴う痛みなど様々な歯周病の症状を改善するためには、麻酔下での歯科処置が望ましいことをお伝えし、まず術前検査を行いました。

 

このワンちゃんは約1年前、甲状腺機能低下症と診断され、飲み薬による治療を続けてきました。

現在は甲状腺ホルモンが適切にコントロールされており、術前検査の結果も考慮した上で、安全に実施できると判断しました。

 

また、歯肉の炎症がひどかったので、感染による炎症を軽減するため、術前から抗生物質も飲ませていただきました。

 

今回のケースでは、高齢で内分泌疾患のあるワンちゃんでしたが、飼い主さまがお薬によるコントロールをきっちり続けてこられとても安定した状態であったこと、そして術前検査を十分に精査し処置を決定・実施したことにより安全に歯科治療ができました。

 

術前検査では、まず問診・聴診・触診などの一般的身体検査・尿検査結果などによりひとりひとりに必要な検査を決定し実施します。

それらの結果により追加検査を行うこともあります。

シニアのワンちゃんネコちゃんでは様々な検査が必要となる場合もありますが、状態をしっかり把握しておくことが安全につながります。

 

 

麻酔導入後、まずは歯周プローブ検査です。

多くの歯のポケットが5mm以上(正常は1~2mm)あり、中には12mm以上ある歯もありました。

 

歯科レントゲン検査

右上顎の前臼歯です。

写真右側の第2前臼歯は歯根の周りが黒く抜けていて、歯槽骨の吸収が起こっていることがわかりました。

 

左下顎の前臼歯です。

第2前臼歯の歯根のうち1本が吸収され、まだらに写っています。(○部分)

 

次は歯神経ブロックを行いました。

 

超音波スケーラーを使って汚れを落とし、ルートプレーニングを行いました。

ルートプレーニング

歯肉縁下の汚れを1本ずつ手作業でかき出していきます。

このような専用の器具を使用しての処置は、繊細な技術が必要であり、また痛みを伴います。
全身麻酔下で行うことにより痛くなく怖くないように、より安全に確実に行うことが出来ます。

 

汚れを落とした後、ポケットが非常に深かった上顎の歯に、通水テストを行いました。

 

右上顎第2前臼歯です。

この歯は歯周ポケットが12mm以上ありました。プローブが根元まで入っています。

 

通水テストを行うと歯周ポケットから注入した生理食塩水が、鼻から出てくるのが確認され「口腔鼻腔ろう」になっていることが分かり、抜歯処置を行いました。

 

 

*口腔鼻腔ろう:上顎歯の歯周病が進行すると、歯を支えている歯槽骨が吸収され鼻腔まで達します。

すると口腔と鼻腔がつながった状態になり、これを口腔鼻腔ろうと言います。

クシャミ・鼻水・鼻出血・目ヤニなどの原因となり、根本的治療はまず原因となる歯を抜歯することです。

 

多根歯(歯の根元が2本または3本に分かれている歯)は、歯科用の高速バーで切断・分割してから抜歯しました。

 

 

 

 

抜歯後は、穴の開いた部分をなめらかにトリミング・生理食塩水にて洗浄し、口腔鼻腔ろうの部分には抜歯創用保護材を充填します。

 

 

抜歯創用保護材の充填後、歯肉を縫合

 

 

歯科検査結果により、今回の処置では4本の歯を抜歯・縫合しました。

当院では、必ず歯周プローブ検査・レントゲン検査(口内法・口外法)・通水テストなどの様々な検査を組み合わせ、抜歯しないと症状の改善が難しい・残しておくと痛みが残ってしまう・安全に処置できる、と判断した場合にのみ抜歯処置をします。

 

不必要な抜歯は行わず、できるだけ今ある歯を大切に残し、痛みのない毎日がおくれるよう処置を行っています。

 

 

左上顎第1切歯は破折していましたが、露髄はしていないと判断し、歯冠修復処置を行いました。

 

ポリッシング

専用の研磨ペーストを使って歯の表面を磨きます。

その後、歯周ポケットの深かった部分に歯科用抗生物質軟膏を注入し、処置は終了しました。

 

 

 

 

 

 

処置後スムーズに回復し、翌日モリモリ食べて元気に退院しました。

 

🍀退院時には、歯科検診結果表をお渡ししています。🍀

 

 

退院翌日に様子をお伺いすると、

元気で、すごい食欲です。口を気にする様子も痛がる様子もありません」とのことでした。

 

経過①(処置から1週間後):歯肉の炎症は上顎犬歯以外ほとんどありませんでした。

抜歯・縫合部分も問題ありませんでした。

歯科用抗生物質軟膏を再注入しました。

歯周ポケットはすべて浅くなっており、軟膏の注入は今回で終了となりました。

 

経過②(処置から2週間後):歯肉の炎症はほぼなくなりました。

 

もともと歯が見えないくらいの歯石がついており、感染による歯肉の炎症もひどく、痛みもあったと思われます。

今回の処置により炎症がなくなり、とても快適に過ごせるようになったのではないでしょうか。

 

歯周病の治療は今回の処置で終わったわけではありません。これからはお家でのケアが大切です。

歯みがきの仕方についてお伝えしました。

 

1ヶ月後、歯科検診で来院されました。

歯みがき粉は大好きだけど、歯ブラシを使うと歯ブラシを噛んでしまいます。やっぱり歯みがきは難しい・・・

とのこと。

まだ歯石はついていませんでしたが、上顎の後臼歯部分が少し汚れていました。

今は歯ブラシは使わずにガーゼやシートで磨き、少しずつ歯ブラシに慣らしてみては?とお伝えしました。

 

歯みがきが出来るようになるコツは、毎日、楽しく、少しずつでも続けることだと思います。

少しずつ歯みがきを受け入れてくれて、病気の予防だけでなく、大好きな歯みがき粉を使った楽しい時間としても続けていけるといいですね。

 

またお気軽にご相談ください。

 

より口腔内環境を良く保つため、専用のサプリメントも続けていただいております。

 

引き続きご家庭でのデンタルケア頑張りましょう!

 

 

2017年01月11日