右の奥歯を歯みがきさせてくれなくなり、他の動物病院を受診。
奥歯が欠け、露髄していると言われたが治療は投薬のみ。
食欲はあるが、痛みがあるようで歯が欠けた右側を使っておらず、食べるスピードが遅い。
破折の原因は、噛むおもちゃ(硬いもの)を与えていたからだと思う。とのことでした。
右第4前臼歯が破折し、露髄し出血点も確認されました。
普段から、ホームデンタルケアはされていて、他の歯はきれいでした。
飼い主さまは、歯を残すことを希望されました。
破折から少し時間が経過しており、歯髄の感染の可能性があるため、抜髄根管治療法を行うことになりました。
抜髄根管治療法:感染を起こした歯髄(歯の神経)を取り去り、歯髄の中に抗菌性の物質を充填し、歯冠(歯の表面)を修復します。
術前検査にて、異常は確認されませんでした。
破折した第4前臼歯
今回、抜髄を行う第4前臼歯です。
露髄し、出血点が確認できます。
破折は人であれば常時激痛を伴う重度の状態ですが、わんちゃんの場合は本能的に痛みを隠すため、生活の様子から症状の深刻さを察知できないことが多いです。ですが人と同じく非常に痛く、早期の治療が必要な状態です。
プローブ検査
上顎・下顎の犬歯と右上顎第3前臼歯のポケットが、3mmとやや深くなっていましたが、ホームデンタルケアをされているので、それ以外の歯のポケットは浅く歯肉炎もありませんでした。
今回破折した、第3前臼歯は2mmでした。
レントゲン検査
歯神経ブロック
スケーリング
まずスケーリングで全ての歯の歯垢・歯石の除去を行います。
不衛生な物質の除去を行い、抜髄根管治療を行う歯の汚染を防ぎます。
抜髄根管治療法
ダイアモンドバーを使用し、歯髄を開拡していきます。
ファイル(不良組織を除去するための細い棒状のやすり)を使用し、根管長(穴の深さ)を測定します。
この時、ファイルが根尖まで達しているか、レントゲン検査で確認します。
レントゲンにて、根管の長さと太さを確認します。
根管の太さに合わせたファイルを使用し、不良組織の除去と根管の拡大を行います。
最初は細いファイルから開始し、徐々に太くしていき根管の拡大と洗浄を繰り返します。
第4前臼歯は3根歯なのでこれを3根全てに行い、感染の可能性のある組織を全て除去します。
この時、根管に削りカスなどが残らないように、消毒と洗浄を繰り返します。
洗浄後、根管の止血・乾燥を行います。
次に、根管充填を行います。
根管の充填が適切にできているか、レントゲンにて確認を行います。
歯冠部の保存・修復
エッチング(歯面をざらざらにさせてレジンをつけやすくする)
ボンディング(歯とレジンを接着させる、のりの役割)
光重合(特殊な光を当て、塗布した材料を固めます)
レジンの充填・形の成形
レントゲン検査を行い、適切に充填できているか確認を行いました。
ルートプレーニング
ポリッシング
最後に、口腔内をきれいに洗い流し終了しました。
<処置翌日>
「退院した日はよく寝ていたが、翌日からは元気も食欲もあり、ごはんも喜んで食べました。口を気にすることもありません。」とのことでした。
<処置から1週間>
「元気や食欲は変わらずあります。修復した歯以外は、歯みがきを始めています。修復した歯に指が近づくと、フッと避けようとするが、今の痛みというより前の記憶だと思います。」とのこと。
歯肉の炎症は全くなく、右上顎第4前臼歯も問題ありませんでした。
<処置から1か月>
「修復した歯の歯みがきは、初めは違和感があるようでした。今はそれもなく左右同じように歯みがきが出来ています。」とのこと。
今回の診察でも、歯はとてもきれいで、全く問題はありませんでした。
今回は、硬いおもちゃでの破折でした。
日頃から、歯みがきをされていて、口の中を見る習慣があったので大きな症状が出る前に異常に気づくことができ、抜髄根管治療法にて歯を残すことが出来ました。
破折は非常に痛みを伴う状態ですが、本能的に痛みを隠すため、症状が進んでから初めて状態に気づくことが多くあります。
すると破折から時間が経過してしまい、歯根の周りが腐ってしまい、歯を残せず抜歯せざるを得ません。
破折が起こっていることをすぐに見つけてあげることが、最良の治療につながります。
日頃から、口腔内をチェックすることが重要です。